鍼は痛いもの?
鍼灸師というマイナーな世界の裏側をポチポチ綴るこのブログ。
今回は「どの鍼が一番痛くないか試してみた」と題してお送りします。
鍼灸院をやっていると
「鍼は痛いですか?」
と必ず聞かれます。
ぶっちゃけた話、身体に鍼を刺せば痛いに決まってます。
注射が痛くなかったことなんて、ほぼありませんよね?
我々も痛み対策はしっかり行いますが、それでも10本に1本くらいチクっとします。
(このチクッは毛を抜かれる痛みが一番近いと思います。)
しかし、だからと言って「鍼は痛いものだ」と開き直るのは技術者として停滞ですよね…。
如何に痛くなく打てるかが鍼灸師としての腕の見せ所です。
鍼の痛みの3要素
鍼の痛みの有無を決める3要素として
①術者の腕
②患者さんの身体の状態、部位
③鍼の質
の3つがあると思います。
①は言わずもがな。
②は症状の強さに比例して痛みは出やすくなります。
③これが一番コントロールできる要素です。
今回③に絞ったお話です。
注射器を作るメーカーが実は何社もあるように、我々鍼灸師の使う鍼を作るメーカーも数十社あります。
鍼1本で何がそんなに違うかと言うと、先端の形や”しなり”、長さ(表記上の長さは同じでもメーカーによって少し長さが違う)など、結構な違いがあるんですね。
そして一番重要なのは痛みの出やすさ!!
こればかりは現場で試すしかありません。
実験方法
今回は自分も含めて3人体制で行います。
それぞれの役目は
・鍼を打たれる役 ひたすら鍼を打たれる。どの鍼が打たれているかは知らされない。打たれた後、痛みを5段階で評価する。
・鍼を打つ役 ひたすら鍼を打つ。どの鍼を打っているか分からない。
・鍼を渡す、記録する役 ひたすら鍼を準備して渡す。彼だけがどの鍼なのか知っている。痛みを数字で記録する。
鍼のラインナップは
・セイリンJタイプ
・セイリンJSPタイプ
・アサヒネオディスポ
・タフリー
・理研
・ユニコ
・ファロスA300
・ファロスC300
の8種類。
で、これを各三本ずつそれぞれ背中、ふくらはぎ、お腹の三カ所に打ちます。
打ち方
本来であれば、押し手といって画像のように身体に手を密着させて痛みを緩和します。
しかし!今回は純粋に鍼の痛みを計りたいので、下の画像のように押し手を浮かせていきます。
ゼッタイ痛いぞこれ。。
※通常はこんな風に打ちません。
実験の肝
この方法ならば、押し手に左右されることなく痛みが計測出来ます。
(自分のアイディアではありません。北川先生、感謝)
打つ側も打たれる側もどの鍼か分からないので、ご贔屓の鍼の結果をねつ造することも不可能です。
ちなみに当院が使用しているのは理研化成さんの鍼。
鍼そのものが柔らかいのが特徴です。
理研、がんばれ!!
いざ開始
8種類をならべてみます。
シャーレに並べました。
実験の風景。
絵面が地味なので、ここは省略。
……合計24本の鍼を押し手なしで打たれるという身体を張った実験、終了!
結果発表
痛みは0〜5の6段階評価です。
0…鍼を打たれたことすら分からない。
1…鍼を打たれた事は分かるが痛くない。
2…鍼を打たれた事は分かるが少し痛い。
3…痛みがある。
4…「痛い」と声が出る。
5…耐えられないレベル。
どどん!
鍼の名前 | 背中 | ふくらはぎ | お腹 |
ユニコ | 1 | 0 | 1 |
ファロスC300 | 3 | 1 | 4 |
ファロスA100 | 1 | 3 | 4 |
理研 | 1 | 1 | 1 |
アサヒNEO | 0 | 0 | 3 |
タフリー | 3 | 0 | 1 |
セイリンJ | 0 | 0 | 3 |
セイリンJSP | 0 | 0 | 1 |
※左から背中、下腿、お腹です。
結果から言うと、ファロスは痛い…と。
そして痛みのラインである「2」を一度も出さなかったセイリンJSP、ユニコ、そして理研はかなり優秀なのではないでしょうか。
結論と感想
鍼の性質そのものが痛みに直結するわけではなく、患者さんの状態や術者のスキルに左右されるところが大きいとは思います。
しかし、万全を期するなら鍼選びも出来るだけ痛くなく扱いやすいものを選択したいものです。
今回はユニコ、セイリン、理研さんが良い成績を出していましたが、扱いやすさの点で自分は理研さんを使わせて頂いております。
正直一番痛かったらどうしようと思っていたので、実験の結果にホッとしています。
今まで以上に自信を持って打つ事が出来ます。
おまけ
突然ですが、数年前にベストセラーになってドラマにもなった自己啓発本、「夢を叶えるゾウ」はご存知でしょうか?
自分の人生を変えたいと悩む主人公にインドの神ガネーシャが様々な試練とアドバイスを与える内容なんですが、その一節にこんな内容があります。
ガネーシャ「自分、ラーメンの中で何ラーメンが好きなん?」
主人公「何って言われると…とんこつラーメンです」
ガネーシャ「じゃなんでとんこつラーメンが好きなん?」
主人公「え?それは…他の味と比べてとんこつが美味しかったからです」
ガネーシャ「せやろ。つまり『ラーメンの他の味を食べた』から分かんねん。
最初とんこつ食べて『そうでもないな』思っても、その後しょう油味食べたら、『やっぱとんこつやな』って思う場合もあるっちゅうことやねん。
つまりは『経験』や。全部経験しとるから、選べんねん」※記憶の片隅から引っぱり出しているので、細部は異なると思います。
そうなんです。他を全て試した結果、選んだ鍼なのか。
それとも試さずに人からいいと聞いて使っているのか。
これはいち鍼灸師として大きな分岐点です。
体験に勝る経験なし!ということで今回は実験を行わせて頂きました。
完。